セカンドライフ上で、八王子を紹介する空間を制作せよ。ただしそれは観光ガイド的な情報に留まらない、そこでの生活からの実感をも含めた空間である。
八王子をいかに伝えるか、ということで着目したメディアは「新聞」。八王子で起きた事件・イベント・文化などを、写真などの画像情報をあえて使わないという着想から至る。「事件」という多少生々しい、また否定的イメージのあるものも取り上げていくことで、きれいごとばかりでない「実感」のある空間を目指す。
ということで『新聞八王子』(仮。後にも言及があるが、名前はまだない)を簡単に紹介。
空間の外観
新聞(板に新聞のテクスチャを貼る)が集まり、「八王子」の文字になっている造形。それが微かに揺れながら宙に浮かんでいる。新聞一枚あたりの大きさは人の身長以上。一目見て新聞とわかる、仮想空間ならではのオーバーさでインパクトを出すことを狙う。
敷地の床面には八王子市のマークを敷き詰める。具体的なオブジェクトは新聞以外には存在しない。文字情報中心の新聞をモチーフに据えることにより、全体として抽象的な空間になるだろうと思われる。
空間のアクション
アバターが宙に浮かぶ「八王子」の文字をタッチすると、その文字は崩れてしまう(雨や雪のように降っていく、あるいは爆発したように周囲に飛んでいくイメージ)。飛散した新聞のいくつかはアバターの周りに集まってくる。飛んでいる新聞をクリックすると、字幕が出る形でその新聞を読むことができる。
現時点での課題
(名前について)
この空間に何か魅力的な名前をつけられないだろうか? あらかじめ発行された新聞を集めている場所として捉えるのか、新聞を作り出している場所として捉えるのかが問題である。作っている側としては「新聞を集めている」以外の何ものでもないが、見る側としては別の解釈ができるのではないか。具体的に言えば、掲示板あるいは博物館なのか、それとも新聞社なのか。
セカンドライフの中でこれを行うことで、掲示板でも博物館でも新聞社でもない、まったく新しい情報のプラットフォームを想定するのも可能かもしれない。いずれにせよどのような意図でそれを行うのか、そしてそれに相応しい名前がほしい。
(空間のわかりやすさについて)
一度に人が何人も訪れたときにどうなるだろうか? 「八王子」という文字が崩れた後の空間に入った人はこの空間をどう感じるのだろう?
床面の八王子市マークがあれば八王子市ということは伝わるかもしれないが、巨大な新聞が降っている空間はなかなかわけがわからない。新聞とは別に、この空間自体のガイドとなるものがあっても良いかもしれない。情報を集めた空間ではあるが、空間そのものが情報と言うにはまだ遠いところか。順を追って空間を体験するならとにかくとして、ランダム要素が高いものなので、ストーリーを作るのも難しい。もっとも、セカンドライフにおける空間全てにストーリーがあるわけではないと思うのだが。(逆に言えば、セカンドライフにおいては自由な動き、流れるままに流れる時間やその空気感を保障すべきなのかもしれない)。
(情報収集、新聞の内容について)
単純に、新聞のスキャン(撮影)がうまくできるかが問題。あと新聞の種類。市報のようなものが保存されていて、しかも閲覧・複写可能かどうか。「名前」のところで書いていてふと思ったことだが、八王子での事件・イベント・文化などの情報を基に、新たに新聞をねつ造するイメージというのもありではないか。その際、文章のクオリティや記事の数が新たに問題となるが。
個人的には既存の新聞を使うことによる匿名性というか、ただ事実がわかる無情観・どうにもならない感覚も面白いと思う。写真の楽しさと相反する、文字の残酷さ(口で言われれば何でもないことでも、メールで見ると傷つくなど)もある空間にしたい。本当にあるからこそのリアリティはいかなる虚構をも上回る。「事実は小説よりも奇」なのである。
しかしながら、今回の課題で行うというと少し弱い気もする。後ろ向きすぎるし、八王子というテーマに的を絞って行う理由もない。また編集意図を持って情報収集するにしても、『コヤニスカッツィ』(映像と音楽だけで構成されるドキュメンタリー風の映画。字幕もナレーションもないのだが、文明批判を意図しているように見える編集が行われている)などの前例もある。このコンテンツ次第で空間の内容がまったく変わってくるので、まだまだ検討が必要ではないか。
参考
『コヤニスカッツィ』
『虚構新聞社』
実際のニュースをパロディにした虚構ニュースを掲載。
(執筆 sato)
10/27・追記
「八王子」という文字が新聞でできているのではなく、「八王子」という文字の周りに新聞が浮かんでいる、という案が出る。